自宅の玄関を入ってすぐに、外から車の大きなエンジン音が聞こえてきた。
と、同時にさき程自宅まで送ってくれた友人から電話がかかってきた。
自宅前に停まっているのは、真っ青のスポーツカーだと言った。
私はこれ以上その友人に迷惑をかけまいと、追い帰した。

玄関を出た。
そこには車から降りたミツの姿があった。
早朝、エンジン音が近所迷惑になると思い、ミツより先に車に乗り込みこの場から離れるよう指示した。
殺られるかもしれないし拉致られるかもしれない。
そう思ったが覚悟はしていた。

近くの大通りに車は停まった。
ミツから先に口を開いた。
どうして怒っているのか理由を聞かれた。
私は馬鹿馬鹿しくなって、笑いながら答えてやった。

ミツは「どうすれば許してくれるのか」と、ふざけた事を聞いてきた。
私はそのメールをしていた元彼女の所に今から連れて行けと言った。
ミツは頷いた後すぐに「殴ったらダメだよ」と言った。
目の前に私の彼氏にちょっかい出した変態女がいたら、手を出さずにはいられないに決まっている。
と、説明した。
ミツは「殴るなら俺を殴れ」と言った。
彼の言ってる事は当たり前のことだが、元彼女を庇っているようで余計に腹が立った。

そして…どうしたんだろう。
思い出せない。
実はその時、私の中の何人もの人格が交差していた。
笑ったり無表情だったり怒鳴ってみたり…
ただ泣きはしなかった。

話し始めてどの位の時間が過ぎた頃だろう。
二人とも疲れていた。
なぜかミツの家に戻っていた。
ミツを変態女に取られたくなかった。
それに私は男には負けたくない、女の腐った生き方はしたくないとずっと思っていた。
しかし次第にその頑丈な扉は開かれていった。
「少し女に戻ってもいい?」と、ふとミツに聞いた。
ミツはいつもと変わらない物静かな表情で頷いた。
その瞬間、込み上げていたモノが流れ出した。
「私が結婚するまで、ミツは孤独でいろ」と言った。
ミツはまた物静かな表情で頷いた。

裏切られた彼に慰められたいた。
今思い出すと馬鹿馬鹿しくて腹が立つ。

バイトは休みを取った。
夜7時頃までずっと話し合っていた。
時々、笑い話もした。
いつの間にか眠りについていたが、嫌な夢を見ては何度も目が覚めた。

自分の行動を理解できない。
ミツと今朝2度セックスをした。
いつもと同じ、2度イッた。
ミツはズルイ。
途中、「ずっと側を離れるな」と私の耳元で何度も囁いた。
私は「ずっと許さない。友達でいて一生後悔しろ」と言った。
それでもミツは「お前から離れない。ずっと…ずっと一緒にいよう」
「結婚しよう」
「愛してる」
「好きだよ」
「今すぐ一緒に暮らそう」
「子供をたくさん作ろう」
「お前以外、何もいらない」
「どんなやり方をしてでも、お前をモノにする」
何度も何度もクサイ台詞を吐いた。

女なんて、そんなありきたりなクサイ台詞に簡単に騙されてしまう。
私もその内の一人だった。
私も、セックスの快感と馬鹿な男の戯言に惑わされるただの雌豚だった。

突然、可笑しくなってきた。
私の中で、婚約者Yの存在が消えかかっていた事と、ミツの存在がいつの間にか浮気相手ではなくなっていた事に。
そして、単純な生き物でしかない意味のない自分の存在に、もうウンザリしていた。

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