精神病院(初診)

2004年3月16日
病院の入り口の扉を開いた。
十数人の患者と思われる人の中で4、5人がこちらを振り返った。
私は気づかないフリをして、受け付けに立ち寄った。
受け付けの人は、茶髪の二十台半ばと思われる女性が一人と、真面目そうで三十台後半と思われる女性がいた。
私が「予約を取った海月ですけど…」と言いかけると、上で紹介した後者の女性が「初診の方ですね。こちらに記入してください。それと保険証をお持ちですか?」と尋ねた。
私は初診受け付けカードに記入し終え、保険証と一緒に提出した。
「では、お座りになってお待ちください」と彼女は言った。
後ろを振り返り、混雑している待合室の空席を探したが、私が座りたいと思えるスペースはなかった。
ふと右側にある扉に目をやると、そこには喫煙室という表札が貼ってあったので、その部屋の中に入ってみた。
そこでは患者同士大声で喋り合い、とてもじゃないが同じ空間にはいたくないような嫌悪感がしたのだが、部屋を覗いて引き返すという行為をする度胸もなく、扉の隅に置いてあったイスに腰をかけた。
そのとき、そのうるさい集団のお喋りは一瞬終わったように思えたが、私が煙草に火を点けた直後、また迷惑な座談会は始まった。
私は息が詰まりそうだった。
そして彼女等を見下していた。
20分もすると、彼女等は徐々に姿を消していった。
私は座り心地の良さそうな椅子に座りなおし、2本目の煙草を吸いながら小説を読み始めた。
待ち時間は、およそ1時間前後っだただろうか。

「海月さーん」
私の名前が呼ばれた。
私は聞こえそうもない声量で「はい」と返事をすると、診察室へと速やかに移動した。
医者に「どうしたの?」と唐突に聞かれた。
そのときの医者の態度といったら、仕事に対して意欲は感じられないものの「面倒くせーなー」というような声まで聞こえてくるような姿勢での対応だった。
私は、アルコール中毒以外の話はせずに、その他の話を簡単にまとめ話た。
それから医者はなにやらテキストのようなモノを持ち出して、総計50問程の質問を繰り返した。
私はそれに淡々と答えた。
時折、その答えに対しての説明も交えて話した。
ふと気付くと、医者は徐々に私の方に近付いてきていた。
私は、それがどうも気になって、気付くと医者にはわからない程度に椅子を引いていた。
一通りの診断が終わると、彼は結論を言い薬の説明もした。
「今日の診断の限りでは、パニック障害、躁鬱病があると断定しました。2種類の薬を出しておきます。まずはパニック障害を治す事から始めようと思います。1週間分の薬を出しておきますので」
このような内容で告げられた。
私は「はい」と頷いた。
「最後に手を触らせてください」と医者が言った。
私は驚きを隠せずに「え?」と聞き返したが、既に私の手を触れていた。
そして医者はすぐに手を離し、「やっぱり汗かいてますね」と一言だけ言った。
私は幼い頃から、緊張すると汗をかく事は自覚していたが、医者のあまりにも唐突な発言と行動に少し動揺した。
「ありがとうございました」と最後に社交辞令を言い残し、診察室を出た。
そして受け付けで薬を受け取って、病院を後にした。

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